はじめに
香港居民が中国大陸の資産を取得したり銀行口座を保有したりするのは、ごく一般的なことです。ただ、香港と中国大陸では法制度が異なるため、香港居民は、自分の死後に家族や大切な方にそのような財産を承継させようとするのであれば、懸念を抱くことがあります。
本記事では、3つの異なる仮想事例と、遺産相続に影響を及ぼす可能性のある中国の関連法規についての議論を精査することを通じて、中国大陸における遺産相続の問題について検討します。
中国大陸における被相続人の遺産相続
国際的な遺産相続を処理する場合、相続手続がどの国の法律に準拠するかを知ることが重要であり、これは、資産の種類によって決まります。遺産の中には、不動産(すなわち、建物、土地)と動産(すなわち、金銭、所持品)という2つの主な種類の資産があります。一般的に、不動産の遺産相続は、その資産の所在地の法律に準拠し、動産の遺産相続は、被相続人の死亡日時点における常居所地の法律に準拠します。
事例1:被相続人が香港で中国大陸所在の遺産を管理する遺言を残した場合
被相続人が、香港で、中国大陸所在の不動産を管理する遺言を残している場合、不動産の相続は、被相続人の死後、中国大陸の相続法に準拠します。中国大陸の相続法によれば、被相続人の遺言書が検認されていることを条件として、遺言執行者は、(検認された後の)遺言に従って、被相続人の遺産を分配する責任を負います。
しかし、遺産が動産の場合、その相続は、遺言者が香港に常居所を有していて死亡した場合には、香港の相続法に準拠します。香港法によれば、遺言書が検認されていることを条件として、任命された(または最後の遺言書に記載された)遺言執行者は、香港の遺産承弁署において遺言書のプロベートの付与を申請しなければなりません。プロベートの付与を得ることができた場合は、遺言執行者は、遺言に基づき被相続人の遺産を分配することができます。
事例2:被相続人が香港で遺言を残さず、中国大陸所在の資産を残した場合
被相続人が遺言を残していない場合(すなわち、無遺言死亡者)で、中国大陸所在の不動産を残した場合、その遺産の相続は、被相続人の死後、中国大陸の相続法に準拠します。相続の優先順位は、中華人民共和国民法典第6編に準拠し、第一順位には配偶者、子および父母、第二順位には兄弟姉妹、父方の祖父母および母方の祖父母が含まれます。相続が開始したときは、第一順位の相続人が相続し第二順位の相続人には相続されず、第二順位の相続人は、第一順位の相続人のいずれかが相続をしない場合に相続します。一般的に、同順位の相続人は、相続人間で異なる持分を取得する旨の合意がある場合を除き、平等な持分を相続します。
中国大陸に動産がある場合、遺産の相続は、遺言者が香港に住所を有していて死亡した場合には、香港の相続法に準拠します。一般的に、非争訟的プロベート規則(第10A章)の第21条に準拠して遺産管理状の付与を申請することができる者の優先順位は、下記のとおりです。
1. 被相続人の配偶者
2. 被相続人の子
3. 被相続人の父母
4. 被相続人の兄弟姉妹または被相続人の兄弟姉妹が死亡している場合はその子
遺産管理状が付与された後は、その者は遺産管理人となり、無遺言遺産条例の定める優先順位に従い、被相続人の遺産の分配を含む遺産管理人の義務を履行する責任を負います。
中国大陸における遺言を伴わない相続の優先順位は、香港と若干異なります。香港の場合は、中国大陸と比較して、被相続人の父母が被相続人の遺産を相続することがはるかに困難です。なぜなら、被相続人に子がおらず、配偶者がその相続分を取得した後に残った財産がある場合(被相続人に配偶者がいる場合)にのみ、被相続人の父母への相続が起こりうるからです。
シナリオ3:被相続人が、香港と中国大陸の両方において特定の中国大陸の資産を管理する遺言を残している場合
2つの異なる国で遺言を残すことに制限はありません。しかし、両者の間に矛盾がある場合には、事態が複雑になることがあります。仮に矛盾がある場合(例えば、遺言が同一の中国大陸の資産の相続に関して異なる指示を与えている場合)、中華人民共和国民法典相続編第1142条によれば、複数の遺言がなされ、内容が互いに矛盾する場合は、最後になされた遺言が優先するものと定めています。例えば、被相続人が香港と中国大陸の両方で遺言を残し、同一の中国大陸の資産の処分について矛盾する指示をしている場合、どちらが優先されるかは、それぞれの遺言がいつなされたかによって決まります。最新の遺言が優先し、他の遺言に取って代わる効力を有します。なお、2つの遺言について適用される法律が異なる場合は、上記の規則は適用されないことがありますので、そのような場合には、さらなる法律上の助言を求めることが推奨されることにご留意ください。
中国大陸における遺産相続に影響を及ぼす可能性のある法律上の規定
中国大陸の法律の中には、相続のプロセスに影響を及ぼすものもあります。婚姻法はその一例です。
中華人民共和国婚姻法第41条の基本的な解釈によれば、婚姻中に夫婦が債務を負担した場合には、離婚時に、夫婦が共同でその債務を弁済すべきとされています。夫婦の共同財産が債務を弁済するのに足りず、かつ、その債務の弁済について夫婦間で協議が調わないときは、裁判所が、債務の弁済の方法を定めます。
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