短時間でわかる香港法上の遺産管理

遺産の処理と管理は複雑な問題であり、どこから手をつけるべきか分からない方々も多いはずです。大切な方の死はとても受け入れがたいことであり、遺産を処理するための書類探しや適切な手続についての情報収集に奔走するような余裕は本来ありません。私たちは日々、このようなストレスに苛まれるクライアントの皆様を目の当たりにします。そこで、本記事では、遺言書を検認し遺産を管理するためのプロベート取得の通常の手続を、段階ごとに要約しました。この記事が、よりスムーズな手続進行の一助になれば幸いです。

ステップ1:死亡の登録

被相続人の死亡後は、まず出生死亡登録官に死亡の旨を登録し、死亡証明書を取得します。死亡証明書を取得するには、死因を記載した診断書を提出する必要があります。

ステップ2:葬儀の手配

死亡証明書を取得した後、葬儀の手配を始めることができます。

遺言書がある場合は、後述のとおり、遺言執行者として遺言書に記載された方が、葬儀を手配する責任を負います。被相続人は、遺言により、埋葬又は火葬を希望する旨の意思を表示することができます。遺言執行者は、葬儀の手配にあたり、このような希望を考慮に入れるべきです。

葬儀の手配および遺体の処理に要する費用は、被相続人の遺産から支払われます。しかし、遺産承弁署から権限が与えられていないため、通常、この早い段階で被相続人の遺産を処理することは認められていません。したがって、実際には、被相続人の家族がそれらの費用を支払い、代理権の付与を得た後、それらの費用が遺産から払い戻されます。

ステップ3:遺言書の捜索と貸金庫の調査 

被相続人の遺言があったかどうか、そして、遺言があった場合は、それが最新の遺言か、後に取り消されたかどうかを慎重に確認する必要があります。(このステップは、被相続人の家族が、葬儀の手配を取りまとめる遺言執行者がいるかどうかを知るために、早めに行うこともあります。)

遺言書を捜すためには、被相続人の個人的書類を確認したり、被相続人の家族に確認したりすることから始めることができます。被相続人の貸金庫もチェックしなければならない場合もあります。

貸金庫を開披するために、下記の方が、民政事務総署長に対し、貸金庫の調査依頼証書の交付を申請することができます。

  1. 遺言執行者又は複数の遺言執行者のうち一名
  2. 遺産を管理する権限を与えられた者
  3. 貸金庫が被相続人と他人と共同で賃借されている場合は、生存する借主

調査依頼証書を取得した後、証書の所持者は、民政事務局長および銀行と、貸金庫の調査のための面談を設定すべきです。

貸金庫の中から遺言書が見つかり、遺言書において調査依頼証書の所持者が遺言執行者に指名されている場合、または所持者が貸金庫の生存する借主の場合、所持者は、遺言書の写しを取り、その写しを貸金庫に返却した後、遺言書を取り出すことができます。所持者は、貸金庫の内容物の目録も作成するべきです。

遺言書がない場合、または、遺言書がある場合でi) 貸金庫の調査依頼証書の所持者が遺言執行者ではない場合、もしくはii) 遺言執行者が遺言書の中で指名されておらず、証書の所持者が貸金庫の生存する借主でない場合には、銀行員は、遺言書(もしあれば)の写しを入手し、その写しを公務員に渡した後に、直ちに貸金庫を閉鎖すべきです。

なお、調査中は、遺言書(もしあれば)を除いて、貸金庫から物品を取り出さないようにご留意ください。

ステップ4:代理権の付与の取得 

その後、被相続人の資産を処理するためには、通常、代理権の付与を受けることが必要です。

被相続人が、遺言執行者を選任する遺言を残して亡くなった場合、遺言執行者は、プロベートの付与を申請すべきです。被相続人が、有効な遺言を残さずに亡くなった場合(例えば、遺言書が発見されなかった、遺言書が取り消された等)、妻や子のような、権利を有する者は、遺産管理状の付与を申請すべきです。

遺産管理状の付与申請は、高等法院遺産承弁署に対して、下記の根拠書類を含む特定の書式で行います。

  1. 遺言執行者/遺産管理人による確約または宣誓供述書;
  2. 資産および負債の一覧表を証明する確約または宣誓供述書、被相続人の死亡日時点の香港における資産および負債の一覧表ならびにその他根拠書類 (例えば、被相続人の死亡証明書、被相続人の遺言書、申請者と被相続人の関係を示す証明書、申請手数料等)

申請を行った後、遺産承弁署は、さらなる情報の入手または明確化のために、申請について追加要請を出すことができます。遺産承弁署がその追加要請に対する回答に満足した場合、遺産管理状が発行されます。

ステップ5:遺産の分配 

遺産管理状の付与を受けた後、遺産の個人代理人(遺言における遺言執行者または遺言がない場合は選任された遺産管理人)は、まず、被相続人の遺産から資産を回収した後、遺産に関連する被相続人の債務の弁済、葬式その他の費用の支払いを行う必要があります。その後、遺産は適宜分配することができます。

有効な遺言がない場合、遺産管理人は、無遺言遺産条例に従って遺産を分配すべきです。相続権の順位は、生存する親族と被相続人との関係によって決まります。無遺言死亡法のもとでは、被相続人と直接血縁関係にある方のみが利益を与え、未婚のパートナー、継子(養子縁組をしない限り)および姻族には利益が与えられないことに留意すべきです。

例えば、被相続人が配偶者のみを残して死亡し、子、父母またはその他の近しい親族がいない場合、生存する配偶者は、被相続人の残りの遺産の全てを取得する権利を有します。別の例として、被相続人が配偶者と子を残して死亡した場合、生存する配偶者は、被相続人の全ての個人的な動産および残りの財産から合計500,000香港ドルを取得する権利を有し、その後、残余財産がある場合は半分に分割され、被相続人の生存する配偶者と子との間で均等に分配されます。

他方で、有効な遺言がある場合、遺言執行者は、遺言における被相続人の希望に従って遺産を分配すべきです。部分的な無遺言(すなわち、被相続人の資産を完全には処分しない旨の遺言がある場合)がある場合、それらの未処分の資産の分配については、無遺言遺産条例により規律されることになります。

おわりに 

上記は、ある方が亡くなった後の問題および被相続人の遺産の処理のプロセスを簡単に要約したものにすぎません。実際には、プロベートを得て遺産を管理するあらゆる段階において、複雑な問題が生じることがあります。上記に関するご不明点がある場合、または当事務所のプロベート・エステートプランニングについてご興味・ご関心がある場合は、当事務所のチームメンバーにご連絡ください。 

本記事は情報提供のみを目的としています。本記事の内容は、法律上の助言を構成するものではなく、本記事をもって個々の事例における詳細な助言に代替されるとみなされることがないことにご留意ください。

2021年3月

Share

Previous

Next

Previous

Next